外構のおはなし⑤ モデルハウス外構設計の苦悩(前編)
4月にオープンしたモデルハウス「住み継ぐ暮らし」。
建物のプランを見たとき
受けて立たないといけないと感じた。
なぜなら、ソファーがテレビではなく、庭を見ていたから。
なぜなら、そのソファーの前には大開口の窓があったから。
「ソファーに座って庭を眺める。開け放した窓から心地よい風が入ってくる。」
そんなワンシーンを想像した。
なんて贅沢な空間! なんて豊かな時間!
ふと現実に立ち戻り、プレッシャーに襲われる。
窓の外にそれに応えうる庭をつくることができるのだろうか。
そもそもあんな立派な窓、その先に広がるのは田園風景か芝生広場しかないでしょ?
この土地にそんなポテンシャルがあるのだろうか?
庭として残されたスペースはさほど広くはなく、道路を挟んで向かいも一般住宅。
道路幅員は4mとやや狭く、借景できる景もない。
側溝が敷地内に入り込み、そのぶん庭が狭くなる。
さらに、庭の一部を駐車スペースとしても活用しなければならない・・・
土地を見た時、囲いで閉じて、プライベートな庭にしたい、狭くても、四季折々に小さな楽しみがいくつも散りばめられた、庭暮らしのできる家にしたい・・・、と感じた当初のインスピレーションは、ポンと泡となって消えた。
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頭をリセットする。
このプランが求めているのは「牧歌的な風景や開放感」・・・
1日、3日、1週間・・・何も浮かばず・・・。
・・・気が付いたら、1か月以上寝かせていた。
ようやくスイッチが入ったのは、内装が決まるころ。
何十回と建物プランの中を歩いてみた。
インナーガレージから玄関へ。ポーチは大谷石。柔らかい風合い。この時ちらっと庭が見える。見るのは帰ってきた時だけ。出ていくときはガレージ側に意識がいくため、あまり見ない。
引戸を開け玄関へ。シューズクローク側からも上がれるので、玄関はすっきりした印象。天井が低いため重厚感がある。
LDKへの動線は2種類。ホールから入るか、手洗いうがい・着替えをすませてキッチン側から入るか・・・。まずはホールから。
リビングは勾配天井が広がり、開放感を感じる。意匠は琵琶湖産ヨシベニア。身近なもので家がつくられていることに改めて気づく。
それから造作のキッチンやテレビボード、ソファー。匠の技の数々。工場生産じゃなく、手作業で家がつくられていることにも改めて感じ入る。
そして大開口の窓・・・。やはりこれ・・・。
キッチン側から入っても、視線の行きつく先はこの窓・・・。
ダイニングの低い天井からリビングの勾配天井で視線を抜きつつ、ヨシベニアで重厚感を残し、この大開口の窓に視線を誘導。ゆっくりと窓が開くことで、この家一番の開放感が完成する。
と、ここで別の課題にぶつかる。OMXは太陽の恵みを受け、室内の温調を年中快適に保つシステムであると同時に、新鮮な空気を取込む換気システムもあわせ持つ。そこで暮らす人は、あまりの快適さに、窓を開けるのを忘れてしまうという。
ほんとうにどうしよう・・・。
どうやって窓を開けてもらおう。
どうやって限られたスペースで開放感を感じてもらおう。
どうやって豊かな時間を過ごしてもらおう。
窓を開放することで広がる開放感。そして開放感を得た先に広がる心の解放感。
「ソファーに座って庭を眺める。開け放した窓から心地よい風が入ってくる。」
冒頭に浮かんだワンシーンがまたよみがえった。・・・もう逃げられない。